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前橋地方裁判所 平成9年(む)3034号 決定

主文

一  被告人甲野太郎に対する銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反、虚偽有印公文書作成、同行使被告事件(前橋地方裁判所平成七年(わ)第五八五号)にかかる刑事確定訴訟記録につき、平成八年九月一三日、前橋地方検察庁検察官が申立人に対してした閲覧不許可処分中、別紙目録1記載の記録部分についての閲覧不許可処分を取り消す。

二  右検察官は、申立人に対し、右記録部分を閲覧させなければならない。

三  申立人のその余の申立てを棄却する。

理由

第一  申立ての趣旨及び理由

本件準抗告の申立ての趣旨及び理由は、申立人提出の準抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

第二  当裁判所の判断

一  本件準抗告記録及び本件確定訴訟記録によれば、以下の事実が認められる。

1  フリー・ジャーナリストでもある申立人は、平成八年九月二日、閲覧目的を「報道目的、原稿執筆のため」として、被告人甲野太郎に対する銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反、虚偽有印公文書作成、同行使被告事件(前橋地方裁判所平成七年(わ)第五八五号)の確定訴訟記録の保管検察官である前橋地方検察庁検察官に対し、同記録のうち別紙目録2記載の部分の閲覧を請求した。

2  前橋地方検察庁検察官(以下、単に「検察官」という。)は、同月一三日、刑事確定訴訟記録法四条二項三号、四号、五号に当たることを理由として、裁判書以外の記録及び裁判書の身上、経歴、前科に関する部分の閲覧を不許可とする処分をした。

3  なお、検察官は、本件確定訴訟記録全部について閲覧請求があったものとして、閲覧不許可の理由を述べているが、申立人は、対応した前橋地方検察庁担当職員と種々折衝した結果、早急に検察官の閲覧許否の判断を受けたいとして、本件確定訴訟記録のうち別紙目録2記載の部分のみの閲覧申請をしたのであり、そうすると、本件準抗告申立ての対象も別紙目録2記載の記録部分に限られることになるから、以下に、別紙目録2記載の記録部分については、検察官の閲覧不許可処分の当否を検討することとする。

二 刑事確定訴訟記録法四条は、刑事訴訟法五三条が規定する刑事被告事件の確定訴訟記録の一般公開の制度の実施手続きを定めた法律である。この刑事確定訴訟記録の一般公開は、憲法八二条の裁判公開の原則を拡充して、裁判の公正を担保するために立法化されたものであって、刑事訴訟法五三条一項を受けて、刑事確定訴訟記録法四条一項は、「保管検察官は、請求があったときは、保管記録(刑事訴訟法第五三条第一項の訴訟記録に限る。次項において同じ。)を閲覧させなければならない。」として保管検察官に原則的な開示を義務づける一方、刑事訴訟法五三条二項が「一般の閲覧に適しないものとしてその閲覧が禁止された訴訟記録は、前項の規定にかかわらず、訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があって特に訴訟記録の保管者の許可を受けた者でなければ、これを閲覧することができない。」と抽象的に閲覧制限を規定していることから、刑事確定訴訟記録法四条二項二号ないし五号でその閲覧制限事由を具体化して列挙したものと解される。このように刑事確定訴訟記録法は、刑事確定訴訟記録を一般公開すると共に、その公開による弊害を防止すべく、関係者との利益の調整を図ったものであって、保管検察官は、閲覧の目的・必要性等閲覧希望者側の事情と閲覧による弊害の有無・程度等を比較衡量して閲覧の許否を決すべきものと解する。

以下、このような観点から、本件閲覧不許可処分の当否について検討する。

三  刑事確定訴訟記録法四条二項三号について

検察官は、「本件保管記録を検討すると、①被告人両名及び関係人の供述調書等の中には、犯行に至る経緯、犯行の手段・方法・態様、被告人両名及び関係人の各心理状態等が一体となって記載されており、とりわけ犯行に至る経緯には、前橋警察署において、年間のけん銃押収努力目標数が設定され、その数値を達成することに焦りを感じていた被告人甲野(以下「甲野」という。)と、これを利用して自己や内妻を留置場内で優遇させようと考えた相被告人乙川(以下「乙川」という。)の思惑が一致したという事実があり、乙川がけん銃を警察に提出するような素振りをして留置場内等で自己や内妻を優遇するように警察官に巧妙に仕向けていた事実が具体的かつ詳細に記載されているのであって、これが広く公表されると、自己に有利な取り計らいを求める留置人がかかる手口を模倣するおそれがあり、また、②本件保管記録中には、留置人護送時の措置、護送員の遵守事項及び引き当たり捜査に伴う護送上の留意事項などを定めた警察内部における訓令通達などの外部に秘匿を要する通達類、並びに、これらを引用した関係人の供述調書が含まれており、③更に、警察官が行っていた覚せい剤使用事犯に対する種々の捜査手法の具体的内容、すなわち、接見禁止請求の是非に関する取扱い、留置場所の選定、取調べ事項、又は、被疑者側が自己の刑事責任を免れるための具体的対応策などが、甲野及び関係人の供述調書に詳細に録取されているほか、けん銃摘発の手法についても同様に録取されており、これらは現に警察でとられている手法であることから、これらが一般に公表されることになれば、今後の刑事司法制度における捜査・拘禁目的を阻害することとなって、社会公共の利益を害することになるおそれが大であり、かつ、これらも本件保管記録中の他の部分と内的に不可分一体となっている。のみならず、④申立人は、本件を警察による組織的な暴力犯罪であると決めつけ、もっぱらその見地からのみ報道している者であることから、申立人に本件保管記録を閲覧に供し、その目的どおり報道させるならば、国民の警察における留置管理体制への不信感・不安感を必要以上に招きかねず、刑事司法制度における捜査・拘禁目的を阻害するおそれが更に大であるといわねばならず、保管検察官が、本件保管記録を申立人に閲覧させることは、三号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害することとなるおそれがあると認められるとき」に抵触する。」旨主張する。

よって、検討するに、検察官指摘の前記①の諸事実は、検察官が閲覧を認めた本件確定訴訟記録中の判決書の量刑理由に詳細に認定記載されているところであり、確かに、その認定の証拠となった別紙目録2記載の記録部分中には、具体的かつ詳細な関係者の供述記載があるが、これらを申立人に閲覧させることによって、殊更に検察官指摘のおそれが強まるとまでは認められない。

検察官指摘の前記②を検討するに、本件確定訴訟記録中には、別紙目録3の一記載の澤田隆男の検察官調書の末尾転付の群馬県警察本部の訓令の写しが存在し、同訓令は、群馬県警察における留置人の護送時の措置、護送員の遵守事項、引き当たり捜査に伴う護送上の留意事項などについて定めたものであり、留置人の逃走を防止し、拘禁を確保するためには秘匿しておく必要があって、これを公にすることは、今後の留置人の拘禁確保に重大な悪影響を及ぼすこととなるおそれがあるというべく、三号にいう「公の秩序を害することとなるおそれがあると認められるとき」に該当するものということができる。しかし、澤田隆男の検察官調書の本文中の右訓令に触れている箇所は、右訓令について簡単な説明をする等にとどまっており、その他の関係人の供述調書の記載を検討しても、一般的な留置管理体制や乙川の護送責任者であった澤田隆男、甲野らが本件被告事件で乙川に対して具体的に行った護送、応答の内容が記載されている程度であり、これらが秘匿されなければならない事実とまでは認められない。

検察官指摘の前記③の警察官が行っていた覚せい剤使用事犯に対する種々の捜査手法の具体的内容等に関する記載の問題については、別紙目録2記載の記録部分を検討しても、検察官指摘のような秘密性の高い捜査手法が明らかにされているとまでは認められないばかりか、検察官指摘のおそれについても、本件被告事件は、捜査遂行過程において現職警察官が引き起こした犯罪であり、その裁判が公正に行われたことを確定訴訟記録の一般閲覧という方法により明らかにさせておく公益性が強いことからすれば、閲覧に伴って捜査手法がある程度明らかになることは捜査機関としては甘受すべきものといわなければならない。

検察官指摘の前記④の検察官の申立人に対する不信感は理解できないわけでもない。しかし、これまで述べた事由からすれば、別紙目録3の一記載の記録部分以外は、刑事確定訴訟記録法四条二項三号に該当しないというべきである。

四  刑事確定訴訟記録法四条二項四号について

検察官は、「本件保管記録の中には、被告人両名及び関連被疑者の身上・経歴・前科内容・家族関係など一身的事情のすべて、並びに犯行動機、共謀状況、犯行の手段・方法・態様、犯行前後の状況等の個人の秘密やプライバシーに関する内容が数多く含まれ、かつ、これらは他の内容と不可分一体の内容となっているほか、被告人などと関係人との間の会話内容や被告人などの心理状態等が随所に記載されている。被告人両名及び関連被疑者は、いずれも自己の犯した刑事事件を忘れたいと強く願っているものと推察されるだけでなく、甲野にあっては、本件により警察官として永年鋭意努力して築き上げてきた地位などがすべて水泡に帰し、被疑者、被告人として捜査官の取調べや公判審理を受け、本件がマスコミなどに大きく報道されて自己の信望も失墜するなどの社会的制裁を受けたほか、免職という懲戒処分を受けるなどの多大な不利益を受けた上、判決においては、懲役二年の刑を受けるとともに、執行猶予を付されて社会内での改善・更生の機会を与えられ、現在、民間企業に勤務して、第二の人生を歩んでいるものであるところ、本件保管記録の内容が、週刊誌等に広く発表されるなどすれば、甲野本人に更なる精神的苦痛を与えて、甲野の心情・性格に強い悪影響を与えるのはもちろんのこと、世間の冷ややかな目にじっと耐えている同人の子や病弱な妻に更なる精神的苦痛を与え、ひいては、これまた、甲野の心情・性格に強い悪影響を与え、また、再起を誓って新たな職場に就いている甲野の現在の職場内における立場に著しい支障を与え、その社会的な復帰を著しく妨げることとなるおそれがあるなど、その打撃は計り知れないものがある。乙川も、本件犯行について反省の情を示し、暴力団組織から除籍処分を受け、服役後、正業に就いて更生する旨決意するなどした上、判決においては懲役一年の刑を受け、現在、改善・更生処遇を施されているのに、本件保管記録の内容が広く公表されるなどすれば、乙川に所属していた暴力団組織の構成員などに乙川を含めた関係人の供述内容などが広く知れ渡ることとなり、ひいては、これが乙川の心情・性格に強い悪影響を与え、その社会的な復帰を著しく妨げることとなるおそれがあることは明らかである。もとより、犯人の改善及び更生の観点についても、閲覧を不許可とされることによって報道の自由等が妨げられる程度などとの比較衝量がなされるべきであるが、申立人は、本件保管記録の内容を週刊誌等で広く公表することを予定しているものであって、今後、被告人両名及び関連被疑者の個人の秘密・プライバシーなどに関する事項が広範囲にわたって報道されることになれば、これが被告人両名及び関連被疑者の改善・更生に与える弊害は極めて大きく、到底、申立人の保管記録閲覧の利益がかような弊害の存在に優越するとはいえない。」旨主張する。

よって、検討するに、別紙目録3の二記載の各記録部分には、暴力団幹部であった乙川が警察官と種々の駆け引き或いは取り引きをして本件被告事件に及んだ状況が具体的に明らかにされており、その模様を公表すれば、乙川の今後の改善・更生、円滑な社会復帰に悪影響を及ぼすおそれが強いと認められるので、これらは、四号にいう「閲覧させることが犯人の改善及び更生を著しく妨げることとなるおそれがあると認められるとき」に該当するものというべきである。

そして、別紙目録3の二記載の記録部分以外にも、検察官指摘のおそれが認められる供述記載があるのであるが、前述のとおり、本件被告事件が現職警察官による職務に絡んだ犯罪であって、その犯行の動機、共謀状況、犯行の手段・方法・態様、犯行前後の状況等について、これを一般閲覧に供する公益性が勝ることや、その供述記載の内容等からすれば、刑事確定訴訟記録法四条二項四号に該当することを理由としてその部分の閲覧を拒否することはできないというべきである(なお、申立人において閲覧結果を公表するに当たっては、犯人の改善及び更生を妨げないような配慮をすべきことはいうまでもない)。

ちなみに、検察官は、関連被疑者の改善・更生にも悪影響があると指摘するが、四号は「犯人」の改善・更生についての規定であり、「犯人」とは有罪の言渡しを受けた者を指すと解されることからすれば、ここでは関連被疑者のそれは検討の対象から除くべきことになる。

五  刑事確定訴訟記録法四条二項五号について

検察官は、「本件保管記録は、甲野・乙川両名の刑事確定訴訟記録であるとともに、両名の関連被疑者であった警察官三名に対する銃砲刀剣類所持等取締法違反、虚偽有印公文書作成等被疑事件並びに関連被疑者であった乙川の知人等四名に対する銃砲刀剣類所持等取締法違反等被疑事件に関する不起訴記録の一部でもあり、本件保管記録中には、被告人両名、関連被疑者七名及びその他の関係人の身上・経歴、前科関係、家族関係、犯行動機、共謀状況、犯行の手段・方法・態様、犯行前後の状況等の個人の秘密やプライバシーに関する種々の内容が数多く含まれており、他の内容と密接不可分に記載されている。また、甲野は、右判決後、民間会社に再就職して平穏な生活を送り、乙川は、服役して改善・更生処遇を施されており、関連被疑者である警察官は、本件により厳格な懲戒処分を受けるとともに、検察庁に送致されるなどして不起訴処分に付され、その後、群馬県内において現職の警察官として勤務し、その余の関連被疑者は、逮捕・勾留されるなどした後、不起訴処分に付され、各々平穏な生活を送っているところである。しかるに、フリーのジャーナリストである申立人は、自ら本件保管記録の閲覧請求の目的は「報道目的、原稿執筆のため」とし、本件保管記録閲覧後、出版社に原稿を持込む予定であった旨自認し、その後、実際、本件に関する記事を発表したほか、権力犯罪の報道の名の下に「押し倒してキスを……」「女性記者告白!『検事がセクハラ』証言の衝撃」と題した暴露的な記事を発表するなどしていた者であることに鑑みると、本件保管記録を申立人の閲覧に供すれば、申立人が、週刊誌等において、本件保管記録に含まれる被告人両名及び関連被疑者を含めた関係人の個人の秘密やプライバシーに関する事項を暴露的な記事として広く発表することを予定していたことは自明であり、しかも、申立人は、本件について、甲野及び不起訴処分とされた関連被疑者の氏名を実名で発表した上、本件を警察による組織的な権力犯罪であると決めつけ、「馴れ合いの実態が表沙汰になるのを恐れてか…検察側は訴訟記録の閲覧すら拒否」「ヤラセによるけん銃摘発が続けられる背景には、それを見て見ぬふりをする検察の姿勢があるから」などといった根拠のない内容の語句を並べ立て、自己の一方的かつ独善的な意見に基づいた暴露記事を発表するなどし、前橋地方検察庁職員に対し、自己が発表した記事により秋田地方検察庁次席検事が左遷され、職を失ったとした上、申立人の意向に添わなければ、右職員も同様になるなどと申し向けるなどもしており、かような申立人に本件保管記録の閲覧を許せば、申立人が、本件保管記録中に含まれる被告人両名、関連被疑者を含めた関係人の供述内容などを生々しく引用するなどした上、自己の推測も交えるなどして、被告人両名及び関係人、特に関連被疑者であった警察官などについての個人の秘密やプライバシーなどに関する記事を広く公に詳細かつ赤裸々に発表し、これにより被告人両名及び関連被疑者を含めた関係人の名誉を害し、また、これにとどまらず、本件保管記録の内容を被告人両名及び関係人から直接・間接に取材するための資料とすることはもちろん、広く第三者から取材するための資料とした上、更なる取材攻勢に出ることが強く推認され、更に、これらにより被告人両名及び関連被疑者を含めた関係人に対し、他のマスコミによる取材攻勢がかけられることになるおそれも極めて高いと言わなければならない。従って、右のような目的のもとに本件保管記録の閲覧請求をした申立人に本件保管記録を閲覧させれば、被告人両名、関連被疑者を含めた関係人の身上・経歴、前科関係、家族関係に関する部分はもちろんのこと、犯行動機、共謀状況、犯行の手段・方法・態様、犯行前後の状況などに関連する被告人両名及び関係人の事件当時の言動及び捜査・公判段階の供述内容が申立人の執筆記事に生々しく引用されることにより、被告人両名及び関係人の名誉及び生活の平穏を著しく害することとなるおそれがあるのは明らかである。」旨主張する。

よって、検討するに、前述のとおり、刑事確定訴訟記録法は、裁判の公正を担保するために、刑事確定訴訟記録を一般公開したのであって、自由閲覧を認めて取材のための材料を提供しようとするものではないことからすれば、報道の自由とても、関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害するおそれがあると認められるときは、取材のための閲覧を制限されてもやむを得ないところである。加えるに、申立人は、本件準抗告申立て前に既に本件被告事件に関する記事を週刊誌上に発表していることなどからすれば、本件確定訴訟記録の不許可処分によって申立人の報道のための取材の自由に及ぼす影響はさほど大きいとはいえず、むしろ閲覧が許可された場合の被告人両名及び関連被疑者を含めた関係人の名誉及び生活の平穏が害されるおそれを問題とせざるを得ないのである。

以下、このような観点から、本件確定訴訟記録を精査検討すると、申立人の閲覧請求記録部分には、甲野の身上・経歴、家庭事情などに関する記載(別紙目録3の三)、乙川の内妻や親族、友人の実名、同人らの受けた刑事処分や暴力団所属歴に関する記載が他の事実と密接な形で記載されていること(同四)、乙川の兄が殺害された殺人事件の犯人の実名等の記載があること(同五)、関連被疑者の身上、経歴、前科関係、同人らの銃砲刀剣類所持等取締法違反等被疑事件についての記載があること(同六)が認められ、これらは、同人らのプライバシーにかかわるものであって、当該部分を閲覧させることによって弊害を生じるおそれは甚だ大きいものと認められる。従って、別紙目録3の三ないし六記載の各記録部分は、「閲覧させることが関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害することとなるおそれがあると認められるとき」に該当するものというべきである(なお、裁判書には甲野の身上、経歴、前科に関する記載があり、公判調書の甲野のその余の供述部分には、同人の身上、経歴のほか、関連被疑者の銃砲刀剣類所持等取締法違反等被疑事件に関連する記載があり、また関連被疑者の各検察官調書中には同人らの経歴に関する記載等もあるのであるが、いずれも概括的なものにとどまっており、関連被疑者に関するそれは不起訴記録の一部となるものでもなく、これらを閲覧させても関係人の名誉又は生活の平穏を「著しく」害することとなるおそれがあるとまでは認められない)。

しかし、その余の犯行動機、共謀状況、犯行の手段・方法・態様、犯行前後の状況等が記載されている部分は、前述のとおり、本件被告事件が現職警察官により敢行された職務犯罪であることからすれば、できる限り開示されるべきものであるところ、当該部分を検討しても、閲覧させることが関係人の名誉又は生活の平穏を著しく害することとなるおそれがある事項が含まれているとまでは認め難い。

なお、申立人がその閲覧をした結果を公表するに当たっては、関係人の名誉又は生活の平穏を害することのないように慎重な配慮をすべきことは当然であって、その配慮が期待できない場合には閲覧を拒否することができると解するところ、右の記録部分について、申立人にその配慮が期待できないとまでは認め難い。

以上の次第で、別紙目録3の三ないし六記載の記録部分以外は、刑事確定訴訟記録法四条二項五号に該当しないというべきである。

六  刑事確定訴訟記録法四条二項ただし書について

申立人代理人は、「申立人は、重大な権力犯罪の背景にある原因を取材し公表することは社会的にジャーナリストに要請されているとの信念で取材を続けているのであり、また、報道の自由は憲法二一条の保障下にあり、報道のための取材の自由も本条の精神に照らして十分尊重に値するとするのが最高裁判所の判断である。訴訟記録の閲覧は、ジャーナリストの命である正確な報道に不可欠であり、申立人の閲覧請求には正当な理由があるというべきである。」旨主張する。

しかし、刑事確定訴訟記録法四条二項ただし書にいう「閲覧につき正当な理由があると認められる者」とは、同項各号の閲覧制限事由があることを認めつつ、なお閲覧を認めようとする法意に鑑みれば、例えば民事上の権利の行使・義務の履行、行政訴訟提起や禁治産宣告等申立て、弁護士等の懲戒処分、破産管財人等の職務、学術研究等から刑事確定訴訟記録を閲覧することが必要な場合であって、本件申立人のように、ジャーナリストが週刊誌等に公表する取材のために訴訟記録を閲覧する場合まで含むものと解することはできず、申立人代理人の主張は採用できない。

七  なお、申立人が閲覧を求めた中村稔の警察官調書及び検察官調書並びに被告人甲野太郎、和佐田文男、阿久澤一弥、今井俊介及び澤田隆男の各警察官調書は、本件刑事確定訴訟記録中には存在しない。

八  以上のとおり、本件準抗告の申立てのうち、別紙目録1記載の記録部分の閲覧不許可処分の取消しを求める部分は理由があり、その余の申立てには理由がないので、刑事確定訴訟記録法八条、刑事訴訟法四三〇条一項、四三二条、四二六条二項、一項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官林潔 裁判官廣瀬健二 裁判官北岡久美子)

別紙〈省略〉

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